輝きの向こう側から見えたもの 〜アイドルマスターシリーズ作品の楽曲の歌詞を解析〜
アイドルマスターシリーズは旧ナムコ(現バンダイナムコ)のアーケードゲーム『THE IDOLM@STER』を元とする、一連のアイドル育成ゲーム又はメディアミックスシリーズの総称です
2005年から続いており、昨今の二次元アイドルブームの大元とも言える、10年以上続くロングセラータイトルです
普通の女の子/男の子たちが、プロデューサー(プレイヤー=あなたであり、同時に作中キャラクターでもある)のプロデュースによってステージで輝く存在に変わる
この過程で出会う仲間とライバル、成長と葛藤、そしてその先にある夢、目標
アイドルマスターの魅力はそこにあると、個人的に思っています
まぁこの記事を見ている人はそれくらい常識(?)と思いますが、自分はそんなアイドルマスターシリーズが大好きです
アニメ版アイドルマスター(いわゆるアニマス)と劇場版アイドルマスター(いわゆるムビマス)からプロデューサーを名乗らせてもらっています
そんな自分ですが、つい先日こんな記事を見つけました
プリパラは3年9か月、何を歌ってきたのか?~テキストマイニングによる分析~
この記事を読み、その深さと面白さに強い衝撃を受けました
これ凄いな
— きりだるま (@kiridaruma) 2018年4月9日
https://t.co/Yvx7acVeWP
歌詞の解析、エモい
— きりだるま (@kiridaruma) 2018年4月9日
昼も貼ったけど、これ最高にエモくないですか
— きりだるま (@kiridaruma) 2018年4月9日
何となく「このシリーズの曲ははこういう雰囲気」というイメージを明確なデータとして出せるんですよ
で、出てきたデータの間を読むことでさらに深い分かりを得ることができる
これは情報を学んでるものとしてやらないといけないhttps://t.co/Yvx7acVeWP
普段何気なく聞いている曲の歌詞の中から「何を謳っているのか」「何を伝えたいのか」
それらを束ねて、そのシリーズは一体どんなストーリーを歌っているのかという情報をデータから数理的に拾う…
「これは、アイマスPとしても情報を学ぶ学生としても、やらないといけない」
そう思い、アイドルマスターシリーズの楽曲の歌詞の解析を行うことにしました
なお、筆者は自然言語処理に関してはほぼ素人です(大学で少し触った程度)
ですので、一部不適切な処理/説明をしていることもあると思います
もしおかしな点があれば、ぜひコメントやGitHubのIssue(後述)で知らせてもらえると嬉しいです
以下、技術的な話が続きます
興味のない方は解析結果までジャンプしてください
前段階 (歌詞を集める)
まずは歌詞を集めないといけません
さいわい、上で紹介した記事に歌詞の集め方が載っていました
これを参考に、
- アイドルマスター
- ぷちます
- アイドルマスターミリオンライブ
- アイドルマスターシンデレラガールズ
- アイドルマスターsideM
の5つのシリーズと、
765AS、ミリオン組の全キャラクターとシンデレラで声が付いているキャラクター全員分の歌手検索を行い、ヒットした曲を全て取り込みました
しかし、一部キャラクターは検索がとてもむずかしかったので、手動でピックアップしています
- ロコ(ミリオンライブ)
- 伴田路子では当然ヒットしない
- しかし、ロコだけだと無関係のものまでヒットする
- 仕方がないので、『STEREOPHONIC ISOTONIC』と『IMPRESSION→LOCOMOTION!』(2曲ともロコのシングル)のみ抽出
- ジュリア
- 「ジュリア」だけだと、Juliaまでヒットして洋楽がたくさん入ってくる
- 仕方ないので、『流星群』『プラリネ』『スタートリップ』(3曲ともジュリアのシングル)のみ抽出
- 菊池真
- なぜか菊池桃子さんの曲もヒットする
- とはいえ、真が歌う曲はそこそこ多い(カバー曲含め、カバー曲に関しては後述)
- 仕方ないので、手動で「singer:菊池真」となっている曲のみ抽出
また、カバー曲の扱いについてとても悩みました
- カバー曲を弾くのは難しい
- 歌手欄はアイマスオリジナル曲と一緒
- 作詞/作曲で弾こうにも、種類が多すぎて無理
- そもそも、自分自身が全てのアイマス関連曲を追いきれてないのでよく分からないところが多々ある
- カバー曲はそのキャラクター自身と無関係ではない
- 千早の『Shangri-La』
- 真の『アンバランスなKissをして』
- 卯月の『気まぐれロマンティック』
- などなど...
以上の理由から、カバー曲も含めています
他、「to D@nce to」等のremixシリーズや、『約束』『約束(TV ver)』『約束(M@ster Version)』等は全て一つの曲として手動で整理しました
結果、合計765曲(偶然)のデータをソースに解析を行いました
解析に使用したもの
自分はプログラムをある程度書けるので、Rubyでコードを書きました
ちなみに、上で引用した記事ではフリーソフトを使っているようです
ライブラリとして、CaboChaとMeCabを使用しました
(MeCabはCaboCha内部で使用されている)
Rubyラッパーとして、cabocha-rubyを使用
コードはGitHubに上げました
- word_type_analysis.rbは、特定の品詞の単語のみを抽出する処理
- link_to_from.rbは、特定の単語と係り受け関係のある単語を抽出する処理
- sort.rbは、上の2つの処理の出力結果を頻度順にソートして、末尾に合計を出力する処理
となっています
解析した結果はresultフォルダ以下に置いてあります
「こんなふうに解析したんだ―」って雰囲気が伝わればいいな
解析の結果、見えてきたもの
まず、どんな単語がよく出てくるのか(type_analysis.rb)を解析した結果
名詞
「私」「あなた」「みんな」といったワードや、「夢」「心」「未来」「世界」といったアイドルマスターシリーズ特有とも言えるワードが上位に入っています
他には「男気」というワードが結構出ていたりと、なかなかおもしろい結果となっています
また、頻度上位の単語だけでなく、下位の方の数回しか出ていない単語を見ていると
- シロツメクサ
- 秩序、理論、不可思議
- ホップステップジャンピング
- ラブラブジュテーム
- ア・ン・キ・モ
- ブレイズアップ
- コレガニッポンノハルデス
- グリモワール
- デネブ、アルタイル、ベガ
- ジェットマシーン
- イルミルミルミ
- ストロベリー・キユーピッド
- ウサミンキュンキュン
- 錬金術、He、Li、F、Ne、Mg、Al、Si、Cl、Ar、Ca
- カーテンコール
といった「あ、これはあの曲だな!」という単語がいくつかあって面白いです
動詞
今度は動詞です
「する」「なる」「いる」「ある」といった単語が圧倒的多数出ていますが、これは仕方ないとして、 「見る」「知る」という知覚系の動詞2つがトップに並んでいます
また、「輝く」「信じる」「変わる」「なれる」「夢見る」「踏み出す」「憧れる」「つかむ」あたりは、アイドルマスター特有の『成長、夢、目標』と関連がありそうです
しかし、「迷う」「泣く」というワードもあるとおり、常に前向きではなく『壁にぶつかって悩み、時には立ち止まることもある』という面も見えてきます
また、頻度下位の単語も特定の歌を連想させる動詞がちらほら見え面白い結果となっています
形容詞
次は形容詞です
これも「ない」「いい」というノイズ的な単語が2トップですが、その下に「強い」という単語に意外性を感じます
おそらく、「強く〜」という形でよく出てくるからでしょうか?
他には「楽しい」「優しい」というポジティブな単語が並んでいたり、「切ない」「怖い」「弱い」というネガティブな単語が並んでいます
また、「熱い」「恋しい」「愛しい」「欲しい」といった、情熱的な単語もいくつか上位に見えます
これらから、アイドルマスターには「切ない楽曲」「情熱的な楽曲」「楽しい楽曲」と幅広い層の曲があることが読みとれます
頻度下位の単語ですが、形容詞はあくまで「何かを飾る」「何かの状態を表す」という副次的要素が強いので、単一では特定の楽曲を連想しづらいと感じました
感動詞
感動詞は「それ単体で独立している」「活用がなく、その単語単体で文になる」といった特徴を持ちます
歌詞の勢いをつけたり、単体でその曲の特徴とも言えるフレーズとなったりと、他の品詞とはまた違った扱い方をされることが多いです
そんな感嘆詞を見てみると「さぁ」「ほら」「ねぇ」といった話し言葉によく見られる単語が3トップで並んでいます
そして、その次に「ありがとう」
これはアイドルマスター特有の単語として現れていると思われます
実際に、上位5つ(「さあ」と「さぁ」は別でカウントされているため)を足し合わせると724となり、これは全歌詞中の感嘆詞(1467個)のほぼ半分を占めています
「ありがとう」という単語は、アイドルマスターではとても大切であると読みとれます
また、感嘆詞はその性質から特徴的なものが多いので、特定の曲を連想させる単語が多数見えます
- 「メリークリスマス」って13回も出てるけど、クリスマス曲...?
- 「Kiss」は9回、これもいくつかピンとくる曲がいくつかありますね
- 「オー」は掛け声的なもの...?
- 「嗚呼」はあえて「あぁ/ああ」と書かないあたり、これもいくつかピンと来る曲が...
感嘆詞だけに注目して考察してみても、いろんなことが連想できて面白いですね
係り受け解析
最後に、いくつか気になった単語に関して係り受け関係にある単語を抽出した結果をまとめました
resultフォルダ以下の「◯◯_link_analysis_result」というファイルが結果ファイルです
いくつかの単語について係り受け解析を行いましたが、その中でもいくつかをピックアップしたいと思います
輝く
輝くという単語に対して、「世界」「場所」「ステージ」「キラキラ」「夢」といった単語が並んでいます
これはまさに「アイドルとして輝きたい」という願いそのものの現れであり、とてもアイドルマスターらしい傾向だと解釈できます
他には、「キラキラ」「星」「Shine」「照らす」といった「星/太陽/空」に関連して「輝く」という単語が出てくることが多いと読みとれます
私
これは「私」「あたし」「自分」「僕」「俺」といった、自分に関する単語の係り受け関連を解析した結果です
結果のトップに「なる」「いる」「する」という単語が並んでいることから、 自分の意思で「何かになる」「何かをする」というフレーズや、「自分はここにいる」という存在を示すフレーズを連想できます
他には「信じる」「知る」「新しい」「なれる」といった自分を信じる、自分(の可能性や新たな一面)を知る、新しい自分、自分は〜になれるという、非常に前向きなフレーズも連想できます
まさに「アイドルとして/人間としての成長を描く」、アイドルマスター特有のフレーズをたくさん連想することができますね
信じる
一番上に「自分」という単語が来ていて、その次に「!(感嘆符)」が来ていることから、自分を(強く)信じるというフレーズが連想できます
他には「力」「絆」「届く」「ずっと」「道」「未来」「叶える」「明日」という、「信じる」と組み合わせるとポジティブで非常にアイドルマスターらしいフレーズを連想できる単語が並んでいます
まとめ、そしてこれからのアイドルマスター
いかがでしたでしょうか?
歌詞の解析を行うことで、普段はなんとなくでしか意識していなかったフレーズやテーマを、数理的に解析することでとても面白い結果が見えました
GitHubのリポジトリも気が向いたら更新していくつもりです
「歌」という「輝き」の向こう側を解析して、そこから得られたデータはまさに、「アイドルマスターとは」という漠然とした問い対しての一つの解と言えます
アイドルは輝くステージ/世界の存在であり、そこに向かって努力し、時には悩み喧嘩し、それでも仲間や自分を信じ、精一杯に夢や希望に向かって進んでいく
アイドルマスターはまさに夢に向かって頑張るストーリーであり、その過程であり、だからこそ我々プロデューサーはアイドルマスターという一つの「お話」に惹かれるのかもしれません